諜報活動組織の是非
6日に共産党が公表した防衛省陸上自衛隊情報保全隊の文書をめぐり朝日新聞を中心に議論が活発になっている。
私が寄稿しているメールマガジンでも購読者の間で色々と議論が交わされてたが、私はこの件を報道で知ったとき何の感慨も抱かなかったのが正直なところだ。いや、もっと言えば未だになぜ今回の件がこれほど騒がれるのか少々理解に苦しんでいる。
反対派の主張として朝日新聞が社説で戦前の治安維持法と絡め「自衛隊のイラク派遣を批判する人を頭から危険な存在とみなし、活動を監視しているかのようである。」と断じている。http://www.asahi.com/paper/editorial20070607.html
その他の団体や個人の主張も凡そ同様のものだ。
今回の件で論点となるのはまず諜報活動そのものの是非であろう。
情報機関として有名なのはアメリカの「CIA」、イギリスの「SIS」、ロシアの「SVR」、中国の「国家安全部」、イスラエルの「モサド」、ドイツの「BND」、フランスの「DGSE」などがあるが日本においてはそれらに該当する統一した機関は存在しないようだ。
日本の場合対照となる分野別に内閣情報調査室(内調)や公安調査庁、公安警察(警察庁警備局)、外務省国際情報統括官組織、防衛省(情報本部)などがありそれぞれが活動しているのは周知のことだ。詳しい部分に関しては私は専門家ではないので事実誤認があればご容赦頂きたい。
諜報活動の目的の一つは国内外の政治・軍事動向、民間の集会や国民意識の動向、企業活動の動向や輸出入動向など様々な情報の収集と分析である。
では何故それが必要となるのだろうか。
古今東西全ての国の情勢を不安定にさせ国家存亡を左右してきたのは「内憂外患」であるのは歴史が証明している。外患は文字通り自国の存在を脅かす他国の存在であり、内憂は国内の様々な不安定要因である。
勿論、内部腐敗や権力闘争もそうだが軍事クーデターや内乱もそれに含まれるだろう。
当然なことではあるが議会制民主主義が内憂の全てを解決できるわけではない。それらを未然に防ぐことを目的に国内の諜報活動は行われている。つまり、国益に反する活動を未然に防ぎ大多数の国民の利益を損なわないように、あくまで自国の利益を守るための機関と考えて良いだろう。
無論、そこには時の権力者によって恣意的に利用されるリスクも伴う。独裁政権にとってはこれほど利用価値の高い機関も他になかろう。今回の論議もそこに基点がある。
では逆にそれらの諜報機関がなかったらどうなるだろうか。
残念なことに、その国の国民が全て国全体のことを考えて自らを律することができる人間ばかりでは無い。同時に全ての国民が理想とする国家像なども存在せず価値観も異なる以上、他者を犠牲にしてでも自己の理想を成就しようとしたり、自らの利益の為に国を売ろうとする人間も存在するのが現実だ。前者の代表としては日本赤軍やオウム真理教などが挙げられるだろうし、後者は北朝鮮などに兵器開発に転用できる設備を不正輸出した企業などがその代表だろう。前者に至っては実際に自国民を他国に拉致したり無差別テロを引き起こしたりしているし、後者も他国の兵器開発を助け自国の安全保障を危機的状況に貶めたりしている。
これらの事件は表向き合法的に装っているケースや法律の盲点を突いた活動などが多く通常の警察捜査などでは実態を把握することは容易ではない。しかも情報がオープンになりすぎて根本解決に至らない場合が多い。それにこれらのケースでは他国との関係や多分に国家機密に関連することが多く、警察組織では対応しきれない。裾野が広すぎて情報統制の徹底も容易ではない。その限界を超えるのが情報が極端に秘匿された諜報機関であるとも言える。要は国家及び大多数の国民の安全と個人の権利を比較してより前者に重心を置いた手法と言えるだろう。
確かに表現の自由や結社の自由、信条の自由は尊重すべきだ。しかし無原則というわけにはいかない。一部の人の都合や信条でより多くの人が犠牲になる事態は避けなければならないし、人間が社会生活を営むためには規律が必要だ。個人や少数の団体・企業の問題だけであれば警察で対応できるだろうが、その範囲を超える事態には国家の関与が必要となってくる。その根幹をなすのが情報であり、情報を収集・分析するのが諜報機関であろう。悲しいことではあるが諜報機関を必要としないほど国際情勢も国内情勢も成熟してはいない。
次に論点となるのが自衛隊が諜報活動することの是非だ。
これに関しては私個人は自衛隊であっても他のどの機関であってもそれほど意味は無いように考えていた。というのも日本の場合は軍(自衛隊)に能動的に活動できる権限は殆ど存在しないからだ。自衛隊には自発的に活動する権限は与えられていないのは周知の事実であり、例を挙げれば阪神淡路大震災の発生時、自衛隊側に救助と復興の準備が整っているにも関らず自治体からの要請が正式に出るまで出動が出来なかった事実がある。
つまり、仮に情報を収集してもそれを活用することは現行の法律では出来ないということだ。加えて、自衛隊そのものの情報収集活動に関しては法律で規制されているわけではない。(「いんちきやかた」というHPで解説されてますのご参考にどうぞ)http://www010.upp.so-net.ne.jp/kawadai/special/inv.html
無論捜査権などは無いため任意による調査や今回の報告のように公開されている場の内容を調査することに限られている。
前述したが日本には統括して諜報活動する機関が無い。そのために自衛隊に関る情報を収集することや自衛隊内の情報統制のための機関として情報保全隊が作られている。
その活動内容は
- 自衛隊に対する外部からの働き掛け等から部隊等を保全するために必要な資料及び情報の収集整理等
- 職員と各国駐在武官等との接触状況(交流状況や職員に対する不自然なアプローチの状況)に係る資料及び情報の収集整理等
- 部隊等の長による職員の身上把握の支援
- 庁秘又は防衛秘密の関係職員の指定に当たって、当該職員が秘密の取扱いに相応しい職員であることの確認の支援
- 立入禁止場所への立入申請者に対する立入許可に当たって、秘密保全上支障がないことの確認の支援
- 政府機関以外の者に対する庁秘又は防衛秘密に属する物件等の製作等の委託の許可に当たって、秘密保全上支障がないことの確認の支援
- 各種の自衛隊施設に係る施設保全業務の支援
- 施設等機関等の組織の健全性を保全する機能を強化するため、施設等機関等の組織保全業務の支援
となっている。(Wikipedia参照http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%85%E5%A0%B1%E4%BF%9D%E5%85%A8%E9%9A%8A)
今回公表された資料だけでは何を目的にどういう調査が行われたのか全体を把握するのは難しい。一部一見無関係と思える調査もあるようだがそれも全体を見てみないとなんとも言えないだろう。ただ、盗聴や盗撮などの強権的な手段を用いたわけではなく、一般に公開されている情報をまとめただけであることは公表されたデータが物語っている。朝日新聞などは「批判する人・・(中略)・・活動を監視している」と主張しているが、データを見る限り支持政党や主張の分類をおこなっているに過ぎないように感じられる。それに調査によって何らかの不利益的な扱いを被った人物も存在しないようだ。
http://www.jcp.or.jp/tokusyu-07/19-jieitai/index.html
それと、今回の件に反対している人達の論調を聞いていると「自衛隊が」云々は単なる言い訳に過ぎず、結局は国家によって活動が監視されていたこと自体を問題としているように思える。
確かに「国民を守るという本来の仕事とは全く違うことを組織的にやっており、許し難い行為だ」という批判は理解できる。諜報活動そのものを自衛隊が直接行う必要性は高いとは思えない。事実、米国でも軍と諜報機関(CIA)は別組織となっているし、情報の連携が取れるのであれば政府直轄の別機関で問題ないだろう。
実際に軍備を保持する部隊が情報まで統括するとなると不必要に威圧感を生じさせることになるのは確かだ。戦前の憲兵や特高を思い起こす人も多いだろう。自衛隊外の情報は別機関に委ねるのが望ましいと思う。
ただ、「諜報=情報統制」と短絡的に結びつけるのは些か乱暴であると思う。明らかに非合法な手段を用いて情報を収集したわけでも圧力を掛けたわけでもない。その恐れがあるという人もいるだろうが、少なくとも圧力を受けたときにそれを公表して公に批判し、是正させる手段と報道の自由は確保されている。
問題になるのは諜報と権力が結びつきそれが暴走する事だ。その暴走を防ぐ様々な規制やシステムはすでに幾重にも張り巡らされている。無論万能ではないが少なくとも簡単に独裁国家と化すことが出来ないようなシステムに日本は既になっている。
諜報そのものは感情的な賛否を除けばある程度必要なものであるのは確かだ。危険があるからといって排除する事は出来ない。
私自身何で監視の対象になるかわからない分、良い気分はしない。ただ、だからといって監視されて困るような活動はしていないし、このブログでも公開している以上は見られて困ることも無い。せいぜい秘密にしておきたいのは最近少し髪が寂しくなってきたことと水虫の再発を恐れていることくらいだ。
寧ろ、私自身は多くの人が既に指摘しているが防衛省の情報が簡単に漏洩している事実と、今回の件を声高に批判している人の殆どが左派ナショナリズムで知られている人であることだ。彼らの思惑そのものが非常に気になる。
(文責:たけ)
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